2015年11月18日水曜日

世界は罪深いことにおいて初めて本来の世界らしく調和するわけではない

ベルカウワーの予定論(原著1955年)の英語版(1960年)
ツイッターに書いたことを転載します。尊敬する次世代牧師とのやりとりの私のターンの部分を抽出しました。文脈はご想像にお任せします。文意を変更しない範囲で若干字句を修正しました。

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「十字架の神学研究会」報告に反応いただき、感謝です。

長大な議論の中の一点を取り上げて書いていますので、論理の飛躍はあるかもしれませんが、直接青野先生の本をお読みくださることをお勧めします。

必然化と美談化はもちろん別です。しかし、世界は罪深いことにおいて初めて本来の世界らしく調和するわけではありませんよね。ハナから「罪深くなければ世界らしくない」と考えてしまうような立場がもしあるとすれば、それこそグノーシスっぽいです。世界そのものの価値をおとしめることを意味せざるをえませんから。

ひとつ、譲歩(?)としていえば、神さまの意志(セレーマ)の内部の「神的必然性」として受肉や十字架をとらえることは、代々の教会がしてきたことではあると思います。しかし、人は神の側に立つことはできないので、人間の論理としては結局「必然ではない」と言わざるをえないわけです。

いえ、そんなに単純な話ではありません。ファン・ルーラーが「契約神学」をどのように評価していたかについては改革派の人からよく訊かれるのですが、残念ながらまだきちんと調べることができていません。ただ、ファン・ルーラーが「贖いの契約」を認めないことはありえないと、私は考えています。

なぜなら、たとえ受肉や十字架を「緊急対策」(emergency measure)だと言ったとしても、それはファン・ルーラーにとってはすべて神さまの「意志」(セレーマ)の内部の話としてとらえるべき事柄だと考えられていることは明らかだからです。

改革派の伝統的な「贖いの契約の教理」にしても、受肉や十字架を単純に「神的必然性」としてとらえてきたかどうかは、よく考える必要があります。そのように単純に言い切ってしまうと、人間の罪も堕落も「神的必然性」でとらえざるをえなくなり、神さまを罪の作者にしてしまいます。

改革派教会を外から眺めている人々は、改革派(カルヴァン派もほぼ同義)は「予定説」だから神さまのことを当然「罪の作者」だと思っているのだろうと見ています。でもそれは、根も葉も「ある」誤解です。改革派の中に「予定論」をそのように誤解する人がいたことは否定できません。

なにもかも「神の予定」の中で決定されていて、人間の罪も堕落も、キリストの受肉も十字架も、すべては神的必然性の中でとらえるのが改革派の神学的立場だというような説明をすれば、おそらく多くの方は、神さまとはなんてマッチポンプな方なのかという感覚を抱くだろうと思います。

でも、違いますからね。カルヴァンの理解は、もしかしたらマッチポンプっぽい神さまのようだったかもしれませんが、改革派教会の400年はカルヴァンのコピーや焼き直しで成り立っているわけではありません。カルヴァンはなんら「教祖」ではありませんので、内部で批判可能な存在です。

では、ファン・ルーラーはどうかといえば、彼こそは間違いなく「二重予定説」の立場に明確に立った人です。その点では、あらゆる万人救済説(普遍救済説)の人々と相容れません。しかし、だからといって神さまを、マッチポンプを仕掛ける罪の作者のような存在にすることも、ありえない。

ドンピシャで「カルヴァンからバルトへ~改革派プロテスタンティズムにおける選びの教理(予定論)の発展」というタイトルの本があるのですが(残念ながら私は持っていません)、オランダ語です。だいたい我々の関心にドンピシャの本はオランダ語です。

古いといえば古いのですが、ベルカウワーの予定論の英語版(Divine Election)は熟読の価値があると思います。出版とかそういうことはあまり考えずに全部自分で日本語に訳してみるといいと思います。

ベルカウワーの予定論がいいところは、バルトの予定論の後に書かれたもので、バルトの改革派予定論批判に対するレスポンスとして書かれている面があるからです。改革派予定論400年の歴史も踏まえられています。概観するのに便利です。英語版が余っていますので、差し上げます。

あと、ベルカウワーの予定論にはファン・ルーラーもかなり登場します。ベルカウワーのほうがファン・ルーラーより少し年上で、しかも所属教派が異なっていた(ベルカウワーはGKN、ファン・ルーラーはNHK)からでしょうか、かなりの面で批判を意図した引用ではあるのですが。

ベルカウワーの予定論は持っておられるのですね。それなら良かったです。さっきお書きになった全員(カルヴァン、トゥレッティーニ、フーティウス、ホッジ、カイパー、バーフィンク、バルト)の名前が出てきますよ。