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日本基督教団紅葉坂教会(神奈川県横浜市西区宮崎町 1 ) |
講演「改革派教会の訓練規定」
日本基督教団足立梅田教会牧師 関口 康
はじめに
私に与えられた宿題は「改革派教会の訓練規定」について話すことです。貴『通信』35号に記したとおり、1990年 5 月に日本基督教団(以下「教団」)補教師准允、1992年12月に正教師按手を受けた私が1997年 1 月から2015年12月までの19年間を日本キリスト改革派教会(以下「改革派教会」)で過ごし、2016年 4 月に日本基督教団教師に戻りました。その経験に基づいて、改革派教会の「訓練規定」との比較において教団の戒規ルールの問題点を浮き彫りにすることが本講演の目標です。
誤解を避けたいと願っています。今の私は正真正銘、日本基督教団教師です。私にはもはや改革派教会を擁護する意図も責任もありません。彼ら自身も、みずからの教会規程(政治規準、訓練規定、礼拝指針)を「途上にある」ととらえています。その意味で「ひらかれた」姿勢を持っています。
改革派教会の基本姿勢
日本キリスト改革派教会は、戦前は旧日本基督教会に属し、1941年の日本基督教団創立当初は「教団第一部」に属し、戦後最も早く教団を離脱し、1946年に創立されました。創立当初から、彼らが「簡易信条」と呼ぶ旧日本基督教会の1890年の信仰告白および諸規則を下敷きにしつつ、米国南長老教会の伝統に基づき、彼らが「精密信条」と呼ぶウェストミンスター信仰基準(信仰告白、大・小教理問答書)の翻訳と教会規程(政治規準、訓練規定、礼拝指針)の整備に取り組みました。
創立50周年記念誌『日本基督改革派教会史 途上にある教会』1996年(142頁)によると、「条文となった規則によって教会のあるべき姿を定めるのが改革派教会の教会形成の基本的な姿勢」であり、「これらの条文は教会の理想を描いているのではなく、現実の教会が曖昧で不透明な道を歩むことなく、分かりやすい筋道立った手順で運営・指導されるための規律である」としています。
もう少し続けます。「日本のプロテスタント教会は当初から法的精神が希薄であったといわれる。家族的な親しみが重視される一方、情緒的な慣れあいに支配される傾向が至るところにあらわれた。規律を重んじ、法に基づく秩序ある教会を形成することは、日本基督改革派教会に課せられた大きな責任である」。
彼らが言おうとしているのは、現実の教会において「曖昧で不透明な」余地を残すと人治主義を招来しやすいので、よろしくない。法治主義の教会を築くためには詳細で精密な条文が必要であるということです。痛いところを突いていないでしょうか。
教会の「家族的な親しみ」は大事にされるほうがよいと私は考えています。しかし、反面の「情緒的な慣れあい」が多くの弊害を生んできたことは否定できないでしょう。
ご承知のとおり、日本基督教団の諸規則は簡易なものです。改革派教会のそれとの違いを明らかにするために、戒規ルールに限定した比較対照表を作ってみました。
戒規ルールの比較対照表
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日本基督教団 |
日本キリスト改革派教会 |
判定規準 |
〇教憲・教規 〇戒規施行細則 (〇「日本基督教団信仰告白」?) (〇「戦責告白」?) |
〇ウェストミンスター信仰基準(信仰告白、大・小教理問答書) 〇教会規程(政治規準、訓練規定、礼拝指針) |
裁判権者 |
〇教団教師委員会(定数 7 名)構成員の 3 分の 2 以上の同意で戒規執行(戒規施行細則(「細」)2 条、3 条) |
〇当該教師が所属する「中会」(「中会」とは一定地域内の全教師、無任所教師、引退教師、各教会の代表者である治会長老で構成される教会会議を指す) 〇教会会議は政治規準に従って、裁判権を有する特命委員会を設置することもできる。(訓41条 2 ) |
原告 |
(規定なし) |
〇原告は常に日本キリスト改革派教会であって、その名誉と純潔が維持されるべきである。(訓練規定(以下「訓」)21条 1 ) |
訴追者 |
(規定なし) |
〇訴追者は自発的にしても、任命によるにしても、常に日本キリスト改革派教会の代表者であって、その事件においては、同代表者としてそのあらゆる権利を持つ。(訓21条 1 ) 〇訴追者は、教会会議の一員でなければならない。(訓20条 3 ) 〇和解と違反者の矯正との手段を試みることなしに訴追者となってはならない。(訓23条 1 ) 〇内密の違反を知る人々は、まず私的な方法によってつまずきを除去する努力なしに、訴追者となってはならない。(訓23条3) 〇被告に対して悪意をもつと知られている者、善良な性質でない者、戒規または裁判手続き中の者、被告の有罪判決と深い利害関係をもつ者、または訴訟好き、無分別もしくは極めて軽率な性質であると知られている者による告訴を受理するときには最大の注意を払うべきである。(訓26条1) 〇訴追者が告発の根拠に蓋然性があったことを示すことに失敗した場合は、悪意または軽率による中傷者として自ら戒規を受けなければならない。(訓27条) |
事情聴取 |
(規定なし) |
〇小会および中会は、その管轄下の人々の信仰と行状についての好ましくない報道に接したときは相当な注意と十分な思慮分別をもって判断し、必要と認めるときはかれらに満足な釈明を求めなければならない。中傷によって侵害を受けたと思う人々が調査を要求するときは、より一層釈明を求めなければならない。(訓20条 1 ) |
公判 |
(規定なし) |
〇議長の開会宣言 〇起訴状の朗読 〇被告の答弁 〇証人尋問(訴追者側、被告側) 〇当事者の発言 (訴追者→被告→訴追者) 〇中会議員による意見表明 〇投票(有罪・無罪) 〇判決 (訓44条) |
証人 |
(規定なし) |
〇被告は証言することは許されるが強制されない。(訓64条) 〇夫または妻は、いかなる会議においても、配偶者に不利な証言を強制されてはならない。(訓65条) |
上告 |
〇不服なるときは教団総会議長に之を上告することを得。教団総会議長前項の上告を受けたるときは通告を受けたる日より14日以内に常議員会の議を経て審判委員会若干名を挙げ之を審判させるものとする。(細 6 条) |
〇上訴とは、下級会議で判決が下された裁判事件を上級会議に移管することである。上訴は不利な判決を受けた当事者にのみ許される。(訓110条) (教師に関する裁判権は中会にあるので、教師の裁判に関する「上級会議」は必ず「大会」を指す) |