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日本バプテスト連盟千葉・若葉キリスト教会(千葉市若葉区千城台東) |
コロサイの信徒への手紙3・16~17
「キリストの言葉があなたがたの内に豊かに宿るようにしなさい。知恵を尽くして互いに教え、諭し合い、詩編と賛歌と霊的な歌により、感謝して心から神をほめたたえなさい。そして、何を話すにせよ、行うにせよ、すべてを主イエスの名によって行い、イエスによって、父である神に感謝しなさい。」
いきなり私事で恐縮ですが、今日開いていただきましたのは、私が過去に個人的に経験した出来事と強く結びついている箇所です。その出来事についてもお話ししたいと願っていますが、その前に、この箇所そのものの意味をご説明させていただきます。
現代の聖書学者たちは、コロサイの信徒への手紙を「使徒パウロが書いたものではない」と断言しはじめています。私は狭い意味での「聖書学者」ではありませんので、そういう話を何度聞かされても「へえ、そうなんですか」というくらいの反応しかできないのですが、それでも学者さんたちの意見は可能なかぎり尊重してきたつもりです。あえて逆らう気はありません。
パウロが書いたものでないなら誰が書いたのかといえば、パウロの名前を借りた別の人物が書いたものであるという話になります。当然といえば当然の結論です。そして聖書学者たちの意見としてもう一つ重要な点は、この手紙は実は狭い意味での「手紙」でもないということです。私が言っていることではないです。聖書学者たちの意見です。
「手紙」でないなら何なのかというと、キリスト教の教えを簡略にまとめたパンフレットのようなものだったのではないかという話になります。ここから先は多少批判的な言い方を含んでいますが、この手紙の中には教会の現実が見える具体的なことへの言及がほとんど見当たらず、もっぱら抽象的なことしか書かれていないので、そういうものは「手紙」であるとは言えないというような話です。
しかし、先ほど申し上げたとおり、私自身は狭い意味での「聖書学者」ではなく、聖書学の「門前の小僧」ですので、正確な議論は学者さんたちにお任せいたします。軽んじるつもりも無視するつもりもありません。ただ私は、教会で説教するときは、これを「使徒パウロの手紙」として扱うことにしています。そのことはご容赦いただきたいと願っています。
そうすることのほとんど唯一の根拠は、冒頭に記されている「神の御心によってキリスト・イエスの使徒とされたパウロと兄弟テモテから、コロサイにいる聖なる者たち、キリストに結ばれている忠実な兄弟たちへ」(1・1)という言葉だけです。この言葉に基づいて、私は「パウロはこう書いています」「パウロはこう述べています」と申し上げます。
ですから、みなさんにお願いしたいのは、私が「パウロ」という言葉を発したときは、みなさんの頭の中でパウロにかぎ括弧をつけていただきたいということです。それで問題ありません。「かぎ括弧付きのパウロが書いた手紙」ということで、聖書学者のみなさまにご容赦いただくしかありません。
しかし、なるほどたしかに、この手紙の中には教会の現実が見えるような具体的なことへの言及はほとんど見当たらず、もっぱら抽象的で観念的で概念的なことが書かれていることは事実です。良く言えば「キリスト教入門」ないし「教会入門」のテキストとして扱いやすい内容です。悪く言う必要はないかもしれませんが、なるほどたしかに、教会の現実が見えない。
しかし、原理・原則というのは、いつでも悪者扱いされるべきではありません。とくに入門志願者や初めての人の中には、原理・原則をはっきり教えてもらうほうが戸惑わなくて安心できると考える人が一定数います。
会社や社会で「こうしなさい、ああしなさい」と命令ばかり受けてきて、教会でも「こうしなさい、ああしなさい」と命令されるのはまっぴらごめんだと感じる人は多いかもしれません。しかし、教会には原理・原則が存在しないというわけではありません。
前置きが長くなってしまいました。今日開いていただいた箇所は、今申し上げていることとの関係でいえば、キリスト教の基本中の基本が書かれているところであるといえます。キリスト教入門、教会入門における最も基本的で根本的な部分が、この短い言葉の中に集約されています。
私はこの箇所の説教をするたびにポイントを三つに絞ってきました。第一は「キリストの言葉が豊かに宿るようにしなさい」、第二は「詩編と賛歌と霊的な歌により神をほめたたえなさい」、そして第三は「イエスによって父である神に感謝しなさい」です。つまり、三つのポイントとは、みことば、賛美、お祈りです。
そして私は、こういう話をいつもします。キリスト教は、どういう場所でも、どういう集会でも、とにかくこの三つです。それは、みことば、賛美、お祈りです。毎週日曜の礼拝も、水曜の祈祷会も、結婚式も、お葬式も、どんな場所でもどんな集会でも、みことば、賛美、お祈りです。
それが基本中の基本であるという意味で、この三つはキリスト教の読み書きソロバンです。イロハです。それが、みことば、賛美、お祈りです。結婚式とお葬式で同じ聖書の箇所を読み、同じ賛美歌をうたうことも、しょっちゅうあります。その意味では、結婚式もお葬式も、礼拝そのものです。
そして、私がこの箇所の説教をするたびに繰り返し強調してきた点があります。それは、みことばについても、賛美についても、お祈りについても、すべては「わたしたち自身が真剣に取り組むべきこと」としてとらえる必要があるという点です。それだけ言っても意味が分からないと思いますので、このあと説明いたします。
過去の経験上、誤解が生じやすいのは、みことばについてです。賛美とお祈りについては、それが「真剣に取り組むべきこと」であるということを、比較的すぐに理解してもらえます。真剣に賛美することの重要性、真剣にお祈りすることの重要性は分かってもらえます。しかし、みことばについては誤解されることが多かったです。
私の説明を誤解する人たちは、決まっていました。みことばとは神の言葉であって、つまりそれは、神御自身がお語りになる言葉なのであって、みことばについての主導権は、徹頭徹尾神御自身にあるのであって、その神の言葉の前で人間はひたすら受け身であるのだから、いかなる意味でも我々人間はみことばに対して能動的な立場にはありえない、というような前提理解を持った人たちです。
私はそういう前提理解を持った人たちから、面と向かって不快感を表明されたこともあります。そのような経験を、私は実際にしてきました。
私はどこを強調してきたのかといえば、「キリストの言葉があなたがたの内に豊かに宿るようにしなさい」という新共同訳聖書のこの訳文はとても正確だと思うので、このとおりに考えてほしいということです。そして、「宿るようにする」のは、あなた自身ですよ、他のだれもやってくれませんよ、ということです。そこをとにかく強調してきました。
キリストの言葉があなたの内に豊かに「宿るようにする」ためにどうすればよいのでしょうか。それは自分で努力するしかありませんよと、私は説明してきました。主導権は、徹頭徹尾あなた自身にありますよと。聖書を自分で開き、自分で読み、繰り返し読み、たくさん学び、深く考えることが必要ですよと。
もっとも二千年前には、だれでも簡単に自分の聖書を買って持っているというような状況にはありませんでしたので、だれでも自分で聖書を開いて自分で読むということはできなかったと思います。その場合は、教会で説教を聴くという方法で聖書を学ぶわけです。しかし、それも自分ですることです。だれかが代わりにやってくれるわけではありません。
この「豊かに宿るようにする」の「する」の主語はあなた自身ですよということを、私は繰り返し強調してきました。しかし、この私の説明は、どの教会においても、どの牧師たちの中でも、一定の人々から強い違和感を表明され、拒絶されてきました。
でも、私はこの件に関しては譲ることができません。なぜ譲ることができないかといえば、それが最初に申し上げた、私が個人的に経験した出来事と関係しているからです。
個人を特定できるような具体的なことは伏せます。様々な外的要因が重なり、激しく落ち込んだ人がいました。その人のことを考えながら、私は礼拝で今日の箇所についての説教をしました。
そのとき私は、こう言いました。「人間の心は風船のようなものです。悪いものがたくさん入っている状態を緩和するには、その悪いもののほうを取り除くことはできませんので、良いものをたくさん詰め込んでいくしかありません。その良いものがキリストの言葉です」と。
その日、その人の心に変化がありました。私が今申し上げているのは、みことばが、あるいは私の説教がその人を救った、というようなことでは全くありません。キリストの言葉が豊かに「宿るようにした」のはその人自身であり、自分の心を開き、聴く耳を持ったのも、その人自身です。
そのことを今日みなさんにも言いたいのです。キリストの言葉が「豊かに宿るようにする」のは、みなさん自身です。礼拝中、別のことを考えていませんか。聖書への興味や関心を失っていませんか。「それどころではない」と思っていませんか。心は、耳は、閉じていませんか。
学校でも私は「こら起きろ、聞け」というような言い方はしませんし、できません。まして教会ではそういう言い方は全くできません。だからお願いです。どうかどうか聖書に関心を持ってください。拙い説教であることは重々承知していますが、どうか耳を傾けてください。キリストの言葉が豊かに宿るようにしてください。よろしくお願いいたします。
(2016年7月10日、日本バプテスト連盟千葉若葉キリスト教会主日礼拝)
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