2011年6月21日火曜日

短編小説「腹が立つほど楽しい毎日」

今日一日、私はどのように過ごしたでしょうか。

午前中ずっと布団の中にいました。もうとにかく、こんこんと。目覚まし時計の爆音も聞こえないほどに。あはは、目覚まし時計、一個も持っていませんけどね。

しかし、そのあいだ、ひたすら考え続けました。眠っているときの私が最も哲学者なのです。「学問は人が何もしていないときこそ進歩する」と誰が書いていたかは忘れました。

アルコールは飲みません、全くね。ついでにいえば、入眠剤も飲まない。かわりに口にするのは、ひたすらウーロン茶です。一日二リットル、毎日二リットル。私のからだから福建省の香りがすると、よく言われます。

水がわりです。水は放射能で汚染されているからです。蛇口から出てくるものは常に毒薬です。

起きたのは午後一時でした。最初にしたことは欠伸です。次にしたことは背伸びです。その次は大便。

それから風呂に入りました。丸一時間、湯ぶねで泳いでいました。死ぬほど生ぬるいんですけどね。だって、夜じゅうポタポタと、蛇口から毒薬が落ち続けていましたから。握力が弱いんです。だから水道代が毎月高い。

パソコンの電源ボタンを押したのは午後三時でした。その直前にコンビニまで自動車を走らせて、「しゃきしゃきレタス」サンドイッチと、サラダと、「焙煎ごま」ドレッシングと、またウーロン茶を買ってきて、それらを頬張り、がぶ飲みしながらアルファベットばかりの初期画面を眺めていました。

そして何をしたか。何もしませんでした。メールは一通も来ませんでした。来るはずないじゃないですか。だって、世のため人のために働いてないんだもの。だれも私に期待していない。期待されても困るんです。だって、何もできないんだもの。

気が付いたら午後七時でした。テレビをつけました。また放射能の話です。怖くなったので、すぐに消しました。

しんとした室内に「ごそごそ」というおぞましい音が響きました。どうやら鼠が住んでいるんです。まあ、でも天井裏にいてくれるので、私の人生にはとりあえず関係ありません。家族の一員だとは思わないけど、死んでほしいとも思わない。「どうぞ、ご自由に。」

元気が出てきたのは午後十時を過ぎる頃でした。これから何をなすべきかと、卸したての大学ノートを開き、鉛筆の先をなめました。おっと、こういう場合は消しゴムが必要だよね、と急に思い立ち、またコンビニまで自動車を走らせました。書斎の机のうえには、ノートと、消しゴムと、命より大切な一枚の写真。

こんな感じの充実した一日でした。だれにも会わず、何もしませんでした。

おやすみなさい。さようなら。

(必ず誤解する人がいるので一応書いておきますが、フィクションですからね、これは。ここ数日、仕事の合間に村上春樹さんの小説を読んでいるので、ちょっとだけ触発されました。そろそろ病気かもしれません。)