言わないほうが身を守れるというか、沽券を保てる気がしなくもないが、つい自慢したくなる無知というのがあります。言いたくて言いたくて仕方がない。
以前、「丸山真男を読んだことがない」と書いたことがあります。しかし、それに匹敵するくらい恥ずかしい、私のもう一つの事実は「村上春樹を読んだことがない」です。
「読んでみよう。読まなければ。読まずにいられるか」と、過去何度か村上春樹氏と向き合う気持ちになったことがないわけではない。何冊かは買って持ってもいる。しかし、パラパラめくってみても、食指が動かない。興味がわく単語が見当たらない。心のどこにも引っかかってこない。自分の読解力の無さのせいにして、放置したまま、20年ほど過ごしてしまいました。
タイトルくらいは知ってるんですけどね。ノルウェイとか、ねじまき鳥とか、ハードボイルドとかね。
最近のも知ってますよ。1Q84、でしたっけ。私が東京で学生を始めたのが1984年ですから、当時の何かを彷彿するような内容があるのだとしたら(読んでいないので、そういうことが書かれているかどうか知りませんが)、もっと興味があってもいいはずなんですけどね。
なんででしょうかね。小説はけっこう読んでいましたよ。中学か高校くらいの頃にいちばん興味を抱けたのは星新一さんのショートショートでしたね。あれは、ほんとに面白かった。真似はできないけれど、自分も何か書いてみようという気持ちにさせてくれるものがありました。
でも、村上春樹さんの本は、みんな読んでいるらしいのに、私は読めなかった。何を言いたいんだか分からなかった。
しかし、一昨日(6月9日)の村上氏のバルセロナでのスピーチは、素晴らしかったですね。とてもいいと思いました。村上氏の言葉に、生まれて初めて共感できました。
「被爆国日本は、核に対するノーを叫び続けるべきだった」(大意)。こういうふうに端的に語ることができる人だということを、今まで知らずにいたことを恥じました。だからといって、「ここは一つ、村上小説を読んでみよう」という気にはなれないのですが。
そうですね、持って回った話というのが、とにかく嫌いなのかもしれません。村上氏の小説を読めなかった理由はそれだけではない気もしますが、少なくとも理由の一つにそれ(回りくどいよ!)があるかな。
結論から言ってほしい。そんなこと言ったら小説なんか成り立たないと言われればそれまでですが。
村上氏が一昨日受賞なさった何とか賞は、もちろん氏の作品への評価なのでしょうけれど、それよりも今回のスピーチが評価されるべきです。あのスピーチにこそ、だれかが賞を授けるべきです。