2013年3月23日土曜日

牧田吉和先生の『ドルトレヒト信仰規準研究』の書評が『季刊 教会』最新号に掲載されました

全国のキリスト教書店で販売されている雑誌『季刊 教会』最新号(第90号、2013年春季号)に、牧田吉和先生がお書きになった『ドルトレヒト信仰規準研究』(一麦出版社、2012年)についてぼくが書いた書評が掲載されました(75~76ページ)。

「書評」のような小さな書き物は、書きっぱなしで眠らせておくよりも、ブログなどに貼りつけて晒すほうが、いろんな人に読んでもらえると思いますので、以下、公開いたします。

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<本のオアシス>

『ドルトレヒト信仰規準研究』牧田吉和著 一麦出版社 2012年

関口 康

牧田吉和先生の『ドルトレヒト信仰規準研究』は、日本国内のすべてのキリスト教会において熟読されるべき一書であると確言できる。本書は「読者の理解しやすさを念頭に置き」(二十四頁)、ドルトレヒト信仰規準の側に立つ人々(本書の表現を借りれば「コントラ・レモンストラント」)を「カルヴィニスト」と呼び、この信仰基準によって排斥された側の人々(「レモンストラント」)を「アルミニウス主義者」と呼んでいる。私も牧田先生に倣って、なるべく分かりやすく書くことにしよう。

本書は自称ないし他称の「カルヴィニスト」だけに読まれるべきではない。「アルミニウス主義者」であることを自覚している人々や何らかの影響を受けている人々に読んでもらいたい。アルミニウス主義に関して部外者の私は正確なことを知らないが、たとえばメソジスト、ホーリネス、ナザレン、アライアンス、フリーメソジスト、ペンテコステなどの方々は、アルミニウス主義と何らかの関係があるのだろうか。もし今でも関係が続いているようなら本書を読んでほしい。そして、本書が描いている「カルヴィニズム」と、歴史的な過去に「アルミニウス主義者」が描いてきた「カルヴィニズム」とが、どこまで合致し、どこからは合致していないかを検証していただきたい。

今の文章を書いているうちに、どんどん話が難しくなってしまっている。私が言いたいことは、昔の教会の人々が「カルヴィニストとはこういう立場であり、アルミニウス主義者とはこういう立場である。アルミニアンはアルメニアンではありませんので間違えないでください」と説明していたことを覚えておられる方々は、その記憶の内容と、この本に書かれていることとを比較してみてください、ということである。予想を言わせていただけば、合致している部分よりも合致していない部分のほうが少なくないことに多くの読者がお気づきになるはずである。もし気づかないとしたら、残念ながら本書を読みきれていない。二か所だけ指摘しておこう。

「いずれにしても、『レモンストラント五条項』の一つひとつの条項に、『ドルトレヒト信仰規準』の側でも一つひとつ独立して対応し、それがそのまま『カルヴィニズムの五特質』となっているように考えられやすいのであるが、それは誤解である。あえて言えば、『ドルトレヒト信仰規準』の場合には、形式的には四条項の構成になっているのであるが、実質的内容を整理すると『カルヴィニズムの五特質』として類型化することができるということにすぎない」(一四六頁)。

「『ドルトレヒト信仰規準』は予定論を扱い、カルヴィニズムは確かに予定論の教えをも含むものであるが、予定論がカルヴィニズムの全体を表現するものではない。したがって、『ドルトレヒト信仰規準』をもって『カルヴィニズムの五特質』と表現することは、カルヴィニズムを偏向して理解させることになり、カルヴィニズムの矮小化に導くことになる」(一三九頁)。

このような「誤解」に基づく解説を聞いてこられた方々は多いのではないだろうか。本書の立場は一教師の個人的見解にすぎないなどと片付けないでもらいたい。牧田先生は現在は高知県の教会の牧師であるが、日本キリスト改革派教会第三十二回定期大会(一九七七年)から六十一回定期大会(二〇〇六年)までの二十九年間、大会憲法委員会第一分科会に属され、五十二回定期大会(一九九七年)から六十一回(二〇〇六年)までの十九年間、委員長であった。また一九八一年から二〇〇七年までの二十六年間、神戸改革派神学校で組織神学を教えられ、一九八七年から二〇〇七年までの二十年間、(大会における投票によって選任された)神学校長であった。本書の発行所は「神戸改革派神学校カルヴァンとカルヴィニズム研究所」である。一教派の「公式見解」とまでは言えないが、一教派の行方を決するきわめて重大な見解であるとは言える。

ともかく、長年の「誤解」の修正が本書の主旨であることは間違いない。加えて、カール・バルトによるこの信仰規準に対する批判への「応答」も意図されている。私は本書の登場によって日本国内の全キリスト教会における予定論の議論が活性化されることを期待している。堅牢で信頼に足る研究書をまとめられた牧田先生に感謝したい。

(日本キリスト改革派松戸小金原教会牧師)