2009年6月6日土曜日

著書なきカキビト

昨日の遅い時刻に、私の部分はごく短いものですが私にとっては初めてのハードカバー付きの本(共著)の原稿の校正ゲラを、やっと出版社に送り返すことができました。珍しく締め切りを守りました。一昨日は別の原稿を書き、掲載誌の編集者に送りました。



私のブログの更新が止まっているときは、惰眠をむさぼっているわけではなく(そういうときもある)、たいていの場合、この種の原稿書きやゲラ校正に没頭しているときです。



お恥ずかしいことに、原稿にとらわれはじめると他の何も手につかなくなります。三度の食事はとりますが、他のことはほぼ抜け落ちていく。日常生活がおろそかになる。「このままでは人間として失格者だ」と危機感を抱き、「早く脱稿せねば」と自分を追い立てる。その繰り返しです。



ところで、共著の出版社から「執筆者略歴を書いてください」と求められたとき、私にはそこに記すべき「著書」も「訳書」もないということに、今さらながら気づかされました。



ナーバスになっているわけではありません。ただ、インターネットをアウトプット先にする書き物の量は多いほうだと自覚しております。この面ではかなり苦労も味わいました。自分で言うのも何ですが、これだけ書くことに苦労してきた人間に未だに一冊の「著書」も「訳書」もないだなんて、なんだか変な話だなあと自嘲気味に笑ったまでです。



でも、別に構わないんです。私の目標は「本を書くこと」自体ではないからです。「本を書くこと」は、目標のための有力な手段であり通過点ではあります。しかし、何が何でも必ずそこを通らねばその先に進んでいけないというほどではありません。



私の書き物は、急行列車の窓から一瞬見えた女性に一目ぼれするようなものです。まばたきしている間に視認できない距離に至る。次の瞬間にはどんな人だったか忘れてしまうほどの微妙なデータです。こんなものはなかなか「本」の形にはなりません。



あるいは、それは引き出しにしまいこんでいる大量のスナップショットです。整理すれば何かの価値が生じるかもしれないと感じつつ、整理のために費やす時間が勿体ないと思えて、未整理のまま次の仕事に没頭しはじめてしまうのです。