ズズタト、ズズタト、タカトントン、タカトントン、トカタカトン、ジャーン!
ドラムの練習中だ。もじゃもじゃ頭の秋保くんが叩いてる。学業成績抜群、明るい性格、友達多数。
ギュワーン。おっと、次はギターだな。長ぼそい顔の三井くん。三井くんの家には正門と裏門がある。正門から玄関まで徒歩二分はかかるお屋敷だ。
キーン。おいおい、マイク、ハウってるよ。ボーカルは道明くん。お父さんは長身の商社マン。道明くんはみんなのアイドル。滑舌が若干悪いが、気にしない、気にしない。
ブベン、ブベン。ベースは坂本くん。ルックスはかなり地味だが、練習熱心。チョッパー系をベロベロベロリンとかできちゃう。
まだ聞こえないのはキーボードだ。小柄な女の子、ミーコ。今日は来てないのかな。
バンド名はまだ無い。募集中。泣く子も黙るロック系なので、「死神エースキラーGTR」とか「マッドビーナス25(トゥエンティファイブ)」とか、やたら強そうなのを考えてるらしい。
おー、いまごろミーコが走ってきた。は、は、は。息切らしてる。遅刻だね。でも大丈夫だよ、まだ彼らイラついてなさそうだし。
蜃気楼がゆらめく灼熱の校庭に響き渡る、魅惑のロックンロール、はじまり、はじまりー。
と思ったけど、あれ?部室から聞こえるのは泣き声。ミーコだ。どうした?
「なにやってんの?」とか三井くんの声が聞こえる。どうやら、ミーコがとんでもない忘れ物をしたらしい。なにやってんだ、ミーコは。
あ、泣き声が止まった。で、またキーンだ。だからマイク、ハウってるって、道明くん!
おー、やっと始まった。ドラムロール。道明くんのシャウト。「アウ!」とか言ってる、あはは。愛されるキャラだよ、あいつ。三井のギターも冴えてるなあ。昨日は、夜遅くまで麻雀やってたはずだが。
一時間たっぷり練習した彼ら。おんぼろの扇風機だけで、よくがんばってるよ。ライブの本番、近いもんなあ。えらいよ。
広い校庭には、野球部とラグビー部と陸上部の子たちがひしめき合っている。ま、棲み分けはいちおう成り立っているけど、危ないぜ、いつホームラン軌道の硬球が、陸上部の子の頭蓋骨を直撃するか分からんね。
お、ミーコが部室から飛び出してきた。ぷぷぷ、また走ってるよ。どこに行くんだろ。もう家に帰るのかな。ま、いいか。でも、かわいいなあ。
え、ぼく?
ただ見てるだけー。聞いてるだけー。ぼーっとね。図書室じゃないよ。教室でもない。暑くて死にそうな校庭のベンチに一人で座ってんの。蜃気楼が面白くてね。
だって、こんな時間、今だけだぜ、たぶん、と思うもの。大学とか入ったら、みんなバラバラだしね。
また会えるのかな。