2003年12月1日月曜日

A. ファン・リューラー著『キリスト者は何を信じているか 昨日・今日・明日の使徒信条』(近藤勝彦・相賀昇訳、教文館、2000年)

本書は、20世紀オランダ・プロテスタンティズムを代表する改革派神学者アルノルト・アルベルト・ファン・リューラー(オランダ語Rulerの表記が「リューラー」か「ルーラー」かは議論がある)の最晩年における代表的著作の一つであり、彼の単行本の日本語版出版は、これが初めてである。

内容は、非常に優れている。ファン・リューラーの神学思想の特徴として知られる「三位一体神学」「神の国神学」「終末論的神学」「創造の神学」「喜びの神学」といった傾向が、満ち溢れている。われわれが人間として地上に生きていくために必要な喜びと勇気、そして希望を教えてくれる。

それが「使徒信条」の解説という形で表わされ、普遍的・公同的キリスト教信仰への入門書として、提示される。われわれは、本書の出版を大いに歓迎し、心から喜ぶものである。

ところで、本訳書の底本は、訳者が明らかにしているとおり、オランダ語版(オリジナルテキスト)ではなく、ドイツ語版であり、したがって本訳書は「重訳」と称せられる。

しかし、われわれが感じている、より根本的な問題は、重訳出版の是非ということ自体ではなく、底本とされているハインリヒ・クヴィストルプ氏の独訳書は信頼するに足りうるか、ということである。

評者自身、これから時間をかけて、オランダ語版とドイツ語版との比較をしていきたいと願っている。現時点ですでに語りうることは、ドイツ語版においては「敷衍」と語るのがはばかられるほどの思想的置き換え、また大規模な拡張が見られる、ということである。はっきり申せば、ファン・リューラーの神学思想に基づく独訳者H. クヴィストルプ氏の思想展開ではないかと疑われる個所が、多数見当たるのである。

そんなことは翻訳の世界では日常茶飯事で、問うに価しないと言ってしまえば、それまでである。また、この点の責任を、日本語版訳者や出版社に問うことはできまい。いずれの日か、わが国で、本書とは別にオランダ語版からの翻訳が出版されることを待ち望む他はあるまい。

底本の問題はともかく、ファン・リューラーの神学思想、そしてキリスト教信仰そのものへの入門として最適な本書を、日本のキリスト者たち、またわが国の多くの人々に、心から推薦したい。いずれにせよ、現時点でこの神学者の単行本の訳書は、これしかない。

(Amazonカスタマーレビュー掲載)